はじめに

看護教育現場では、アカデミック・ハラスメント(アカハラ)が深刻な問題となっています。朝日新聞クロスサーチによる過去の記事調査により、教師たちの暴言や過度の指導放棄、実習の単位剥奪など、多岐にわたる不当な扱いが明らかにされました。以下では、朝日新聞の記事から得られた具体的な事例とその問題点を整理し、看護学生を守るために必要な対策を考察します。


1. 看護学生が受けた具体的なハラスメント行為

1-1 暴言や侮辱、威圧的態度

  • 「能力が低い」「態度が悪い」との決め付け(2006年6月27日)
  • 「あなたより学部生の方がもっと実習ができる」(2007年6月29日)
  • 「ぶっ刺すぞ」「殴るよ」「蹴るよ」「頭が小学生以下」などの激しい言葉が日常化(2021年4月13日)
  • 反省文や始末書の執拗な提出要求(2021年4月15日, 10月31日)

1-2 身体的暴力や粗雑な扱い

  • 腹部を叩かれる、水を掛けられる、肩を強く引っ張られる(2021年4月13日,2022年3月30日, 6月16日)
  • 課題の提出物を床に投げ捨てる(2021年4月8日)
  • 尻もちをつくほど強く引っ張られる(2021年4月8日)

1-3 教育機会の剥奪と不当評価

  • 必修の病院実習へ参加を許可されない(2006年6月27日)
  • 必要な論文指導が受けられない(2007年3月6日)
  • レポートの殴り書き添削のみや執拗な×印のみのフィードバック(2021年4月15日)
  • 「面倒くさい」と言われ、質問を拒否されるなどの指導放棄(2022年3月4日)

2. ハラスメントがもたらす影響

2-1 留年・休学・退学の増加

  • 1年生40人中15人が自主退学(2022年12月30日)
  • 約半数の学生が退学・留年に追い込まれた例(2021年4月22日)
  • 反省文の提出遅延等を理由に再試験が認められず留年(2021年4月15日)

2-2 精神的苦痛・自殺リスク

  • 暴言や叱責が原因でうつ状態や自殺念慮に陥る学生の報道(2021年4月7日)
  • 実際に自殺事案が発生し、パワハラとの因果関係を調査する第三者委員会が設置されたケース(2022年10月12日、2023年10月20日)
  • 自殺との因果関係を道側が否定し続ける一方、遺族側と見解の相違が生じている(2023年11月2日)

3. 教員側の言い分

新聞報道によると、教員たちは「厳しい指導の一環」「患者の命を預かるため」という名目で暴言を正当化する姿勢が見られます(2006年6月27日)。しかし、以下のような問題点が浮き彫りになっています。

  1. 自分の行為をアカハラだと認識しない
    • 「指導の一環」として言動を認めず(2021年5月8日)
  2. 学生の声を軽視
    • 「面倒くさいから説明しない」「わからないなら他の学生に聞け」などの発言で、指導を放棄(2022年3月4日)
  3. 学生の学習権や安全の無視
    • 「単位の認定はどうにでもなる」など、教員の権力を振りかざす(2012年8月31日)

これらは、教員自らがハラスメントへの理解不足や適切なコミュニケーション技術を欠いていることを示唆します(2021年5月8日)。


4. 教育機関・行政の対応や課題

  1. 対応の遅さ
    • 実態調査開始まで2か月以上要し、留年や退学が多数出た後にようやく動いた事例(2021年4月10日)
  2. 不透明な情報開示
    • 在学生・休退学者数などの情報を「個人特定の恐れ」等の理由で非開示(2021年8月14日)
  3. 教員への研修やハラスメント対策の不徹底
    • パワハラ防止指針が機能しておらず、教員が自らの行動を見直す機会が不足(2021年5月8日)
  4. 学生への救済措置の検討
    • 過去に不当評価を受け、留年や退学に至った学生への対応見直しを試みる動き(2021年4月10日)

5. まとめと提言

5-1 現場の実態

  • 罵倒や暴言、身体的暴力、教育機会の剥奪が頻発。
  • 留年・休学・退学率の異常な増加、精神的苦痛や自殺リスクの高さ。

5-2 教員・組織への課題

  • ハラスメントを「指導」と誤解し、学生の学習権を軽視する風土。
  • 報告体制や調査委員会の設置が遅れ、学生の不利益が拡大。

5-3 改善に向けて

  1. 徹底したハラスメント防止研修
    教員が自身の言動を客観視し、適切な指導法を学ぶ。
  2. 透明性ある報告・調査システムの構築
    匿名通報や第三者機関(オムブズマン等)の活用で、報復リスクを減らす。
  3. 学生のメンタルヘルスサポート強化
    カウンセリングや相談窓口を拡充し、早期の不調把握や支援を実現。
  4. 過去の被害者への救済策
    不当留年・退学者の再評価や再入学支援など検討し、後追いの対処に努める。

看護学生へのアカデミック・ハラスメントは、学生一人ひとりの学習と将来を奪うだけでなく、医療現場全体の質低下や看護師不足という社会的問題に波及します。教育・研究機関や行政が、迅速かつ透明性ある対応と、教員側の認識改革を強力に進めることが不可欠です。


参考文献(朝日新聞)

  • 朝日新聞,2006年6月27日[朝刊・1社会]「三重大医学部学科長の「嫌がらせ」認定、学生にアカハラ 暴言、実習許さず/名古屋」
  • 朝日新聞,2007年3月6日[朝刊・1社会]「三重大、授業料半期分を返還 教授不在、論文指導できず/名古屋」
  • 朝日新聞,2007年6月29日[朝刊・2社会]「アカハラ、学科長訓告 三重大【名古屋】」
  • 朝日新聞,2011年11月18日[朝刊・3社会]「大分大准教授をアカハラで戒告 暴言繰り返す/西部」
  • 朝日新聞,2012年8月31日[朝刊・山口・1地方]「学生にセクハラ、県立大教授を停職/山口県」
  • 朝日新聞,2018年11月21日[朝刊・大分全県・1地方]「パワハラで教授を処分/大分県」
  • 朝日新聞,2021年4月7日[朝刊・1道]「「パワハラで留年・休退学」 江差高等看護学院、学生らが訴え 道、きょう説明会/北海道」
  • 朝日新聞,2021年4月8日[朝刊・1道]「教師のパワハラ認定せず 道が説明会 江差の看護学院問題/北海道」
  • 朝日新聞,2021年4月9日[朝刊・1道]「道の対応策「納得できぬ」 学生らが批判 江差・看護学院問題/北海道」
  • 朝日新聞,2021年4月10日[朝刊・北海道総合]「学生の救済措置、検討も 道が実態調査へ 江差パワハラ問題/北海道」
  • 朝日新聞,2021年4月10日[朝刊・2社会]「「教師パワハラで留年」」
  • 朝日新聞,2021年4月13日[朝刊・北海道総合]「理不尽な言動、1年で退学 江差の看護学院問題、元学生の思い/北海道」
  • 朝日新聞,2021年4月15日[朝刊・1道]「添削、殴り書きと×印 「指導というよりいじめ」 江差・看護学院のパワハラ問題/北海道」
  • 朝日新聞,2021年4月22日[朝刊・1道]「際立つ退学・留年 昨春入学生の半数 江差看護学院/北海道」
  • 朝日新聞,2021年5月8日[朝刊・1道]「パワハラ問題なぜ、どう改善 江差の看護学院めぐり識者に聞く/北海道」
  • 朝日新聞,2021年8月14日[朝刊・1道]「休退学数、黒塗り開示 高看パワハラ、道「個人特定恐れ」/北海道」
  • 朝日新聞,2021年10月13日[朝刊・北海道総合]「教員のパワハラ52件 高看問題で調査委認定/北海道」
  • 朝日新聞,2021年10月31日[朝刊・北海道総合]「学生らに「おわび」 道、函館で説明会 高看パワハラ/北海道」
  • 朝日新聞,2021年11月9日[朝刊・1道]「江差高看パワハラ、無料の電話相談会 函館弁護士会が11、12日/北海道」
  • 朝日新聞,2021年12月21日[朝刊・北海道総合]「権限集中見直す 学院長専任、副学院長2人に 道、パワハラ再発防止へ対策/北海道」
  • 朝日新聞,2022年2月19日[朝刊 ・1道]「道側が賠償提示開始 30万円強の学生も 高看パワハラ/北海道」
  • 朝日新聞,2022年3月4日[朝刊・ちば首都圏・1地方]「15人退学パワハラか 第三者委設置 木更津看護学院/千葉県」
  • 朝日新聞, 2022年3月30日[朝刊 ・1道]「高看の教員10人処分 道、江差副学院長ら パワハラ/北海道」
  • 朝日新聞, 2022年5月21日[朝刊・1道]「江差の学生自殺、遺族が調査要望 パワハラとの関係、道へ/北海道」
  • 朝日新聞, 2022年6月16日[朝刊 ・愛知・1地方]「「教員からハラスメント」、学生ら市に要望・嘆願書 蒲郡市立看護学校/愛知県」
  • 朝日新聞,2022年10月12日[朝刊・北海道総合]「江差パワハラ、再び第三者委 道、自殺学生との関係調査へ/北海道」
  • 朝日新聞,2022年12月30日[朝刊・ちば首都圏・1地方]「教員のパワハラ認定 校長辞任、2教員退職 木更津看護学院、15人退学で第三者委/千葉県」
  • 朝日新聞,2023年3月25日[朝刊・北海道総合]「自殺した学生への教員パワハラ認定 江差高看巡り 第三者調査委/北海道」
  • 朝日新聞,2023年5月17日[朝刊・北海道総合]「学生にパワハラ、道が遺族に謝罪 江差・看護学院の問題/北海道」
  • 朝日新聞,2023年7月15日[朝刊・愛知・1地方]「元副学校長ら2人、アカハラで戒告 蒲郡市立の看護専門学校/愛知県」
  • 朝日新聞,2023年10月20日[朝刊・岐阜全県・1地方]「学校側の対応不適切 看護学生自殺で第三者委報告/岐阜県」
  • 朝日新聞,2023年10月28日[朝刊・北海道総合]「道が示談条件提示 江差高看パワハラ、学生自殺/北海道」
  • 朝日新聞,2023年11月1日[朝刊・北海道総合]「パワハラと自死の因果関係 道、前提なら賠償応ぜず 江差看護学院の示談交渉/北海道」
  • 朝日新聞,2023年11月2日[朝刊・北海道総合]「江差高看生自殺、原因で食い違い 道と遺族側/北海道」
  • 朝日新聞,2023年12月26日[朝刊・北海道総合]「江差看護学生自殺、回答書撤回求める 父母の会、道に申入書/北海道」